ホーム > 小谷の250字 > 2015年7月(31)


<< 珠玉の微笑み >>


2015/7/4(Sat)

 運河にかかった橋の上で、彼女は歩道と車道を隔てる縁石に腰かけていた。この橋も河もなかった頃から、昭和と平成をまるごと見てきたであろうその両眼を、何を眺めるともなく遥か遠くに向けながら。
 小柄な体躯を包むさっぱりとした藍の着物は何かのお師匠さんといった風情。艶やかだったであろう往年の名残が漂う。
 彼女は微笑んでいた。笑顔に沿って深い皺が穏やかな陰影を描く。どれほどの幸福を重ねたらこんなふうに笑えるか。
「お幸せに」
 通りすがりの僕にはからずも彼女はそう言った。
 幸せになれそうな気がした。
小谷隆


<< 新国立という高い玩具 >>


2015/7/5(Sun)

 迷走を続ける新国立競技場の建設問題については、総工費が当初の見積もりより900億円も高い2520億円かかる見通しだそうだ。
 新国立のデザインは公募で選ばれた。巨大な2本のアーチが特徴的なのだけれど、このアーチが1本当たり実に500億円もかかる。合理性の極みにこそあるのが建築の美だと聞いたことがあるけれど、これだけ費用がかかるということはそもそも機能美を体現したデザインではないのだろう。
 合理性とは程遠い玩具を描いたデザイナーの浅識もさることながら、それを選んだ選考委員の資質もどうかと思う。
小谷隆


<< 日本男子はダメなのか >>


2015/7/6(Mon)

 快進撃で列島を沸かせたサッカー「なでしこジャパン」。サッカーに限らず、あらゆるスポーツで日本人女子選手は世界と渡り合っている。そんな報道のたびに「かたや男子は」と嘆きの声。実際サッカーに至っては予選突破すら危うい。
 日本男子はダメなのか。いやそういうことではない。そもそも世界的に見て、人種による運動能力の差は男子より女子の方が小さいのだ。加えて、女子の競技は男子に比べて歴史が浅いために巧拙の差も広がっていないのである。
 男子は男子なりにハンデを乗り越えて健闘している。温かい目で見てほしい。
小谷隆


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